(KK2)流線形のキセキ
原田少佐は傘をさしているとはいえ、それでも叩きつける雨でぐっしょりと肩口は濡れていた。
軍服は色も変わり、朝のぴんとした折り目も、今は見る影もない。
二人の上官は僕らから離れ、僕らは原田少佐を中心にして隊列を整えた。
雨に構うことなく背筋を伸ばして整列する。
原田少佐はそんな僕らを一瞥すると、足元にあった木箱のような段の上に上がった。
そしてぎろりと再度僕らをねめつく見たと思うと、雨音を蹴散らすような良く通る声で「隊歌!」と言った。
それに応え、僕らは伴奏もなしに隊歌を歌った。
雨に掻き消えないよう、一句一句はっきり聞こえるよう、僕は丁寧に音を紡ぎ出す。
隊歌の声が出ていなかったり揃っていなかったりすると、容赦なく叱責や体罰が飛んでくるためだ。
雨が口の中に入ってきて、鉄屑を舐めたような味が広がっていくのにも構うことなく、声を張り上げた。