妖不在怪異譚〜釣瓶落とし〜
お米は藤次に、さっき松の木で起こった出来事を語り聞かせた。
「しかしなあ。猿の親子はそれでいいとして、俺の腹の虫はどうすりゃいいんだい?。」
恨めしげに下腹をさする藤次の肩を、お米は微笑みながら叩いた。
「まあ、今日は水で我慢してよ。その代わりにね、終わったら一緒にあの蕎麦屋に行きましょう。」
「蕎麦屋へ?。」
「そうよ。あなた、ずっと飲まずに頑張ってきたでしょう。たまには羽根を伸ばしてくださいな。」
そう言って、泥だらけの藤次の手をギュッと握りしめた。
『松の木と女房』終。