妖不在怪異譚〜釣瓶落とし〜
…古そうな箱だった。
ブリキか何かで出来ているのか、蓋がちょうつがいで繋がっているものだ。
「何だろうな、これ?。」
おもむろにその蓋を開けた隆介は、次の瞬間「あっ。」と小さく声をあげた。
そこに入っていたものは、酒瓶のキャップやきらびやかなガラス玉。
そのほとんどがガラクタだが、彼はそれに見覚えがあった。
…幼い頃に集めた宝物。
その思い出が詰まった箱だったのだ。
「でもどうして、それがここにあるんだろう?。」
再び榧の木を見上げながら、彼はハッと思いだすように叫んだ。
「そうだ、俺。この木に宝箱を隠したんだった。」
…それは当の昔に忘れていたことだったが。
この木の上には小さな榁(むろ)があり、よくそこに色々なものを隠していた。
そのことを今、思いだしたのである。
「そうかあ、そういえばそうだったよなあ。」
彼が少し涙ぐんだとき、一羽のカラスがその枝から飛び去った。
…この辺りでは、見たことのない大きさだ。
夕焼けの空の中へ羽ばたいていく、そいつを見つめながら隆介は呟いた。
「ありがとな、カラス。思い出させてくれて。」
『宝箱』をそっと、握りしめながら…。