花かがり 【短編集】
◇ 鈴蘭 ―スズラン―
【鈴蘭】
春から夏へと季節が変わる頃、初夏の朝はまだ肌寒く、朝露に濡れた草木達は深緑を増していった。
太陽光を浴びた鈴蘭は、凛とした香りを放ちキラキラと輝きながら群れをなして咲いていた。
紗香は、その釣り鐘形の白い花を、夫、一樹の為に数本摘む。
『幸福を運ぶ花』とも呼ばれる鈴蘭は、一樹の好きな花だ。
何故、好きなのかは知らない。
今も尚、聞けずにいる。
たぶん、この先も聞かないと思う。
「おはよう」
紗香は、一樹の寝ているベッドに腰をおろし、一樹の唇にそっとキスをした。
朝陽に当たった一樹の顔は、程よく焼けていて綺麗な顔をしている。
しばらく、一樹の寝顔を見つめていると、
う~ん。
と言って、両腕を伸ばし伸びをした。
「おはよう。紗香」
目を覚ました一樹は、伸ばしていた腕を紗香に絡ませて抱き寄せた。
「おはよう…」
一樹に抱き寄せられたままの形で、目を閉じてもう一度言った。
布一枚隔てただけなのに、一樹の温もりは直接肌に触れたように心地良い。
― 幸せの瞬間(とき)―
紗香は、そのままの格好で一樹を感じていたかった…。
春から夏へと季節が変わる頃、初夏の朝はまだ肌寒く、朝露に濡れた草木達は深緑を増していった。
太陽光を浴びた鈴蘭は、凛とした香りを放ちキラキラと輝きながら群れをなして咲いていた。
紗香は、その釣り鐘形の白い花を、夫、一樹の為に数本摘む。
『幸福を運ぶ花』とも呼ばれる鈴蘭は、一樹の好きな花だ。
何故、好きなのかは知らない。
今も尚、聞けずにいる。
たぶん、この先も聞かないと思う。
「おはよう」
紗香は、一樹の寝ているベッドに腰をおろし、一樹の唇にそっとキスをした。
朝陽に当たった一樹の顔は、程よく焼けていて綺麗な顔をしている。
しばらく、一樹の寝顔を見つめていると、
う~ん。
と言って、両腕を伸ばし伸びをした。
「おはよう。紗香」
目を覚ました一樹は、伸ばしていた腕を紗香に絡ませて抱き寄せた。
「おはよう…」
一樹に抱き寄せられたままの形で、目を閉じてもう一度言った。
布一枚隔てただけなのに、一樹の温もりは直接肌に触れたように心地良い。
― 幸せの瞬間(とき)―
紗香は、そのままの格好で一樹を感じていたかった…。