花かがり 【短編集】
「イイ匂いだなぁ…」
一樹が、目を瞑ったまま呟いた。


「鈴蘭よ。キレイに咲いていたから、摘んで活けたの」

「そうか…」
囁くように言って、更に強く紗香を抱き締める。

抱き締める一樹の体が、少し震えていたように感じる。

何故、そう思ったのか…

何故、そう感じたのか…

別に、何でも無いコトなのに…


それはたぶん、鈴蘭の香りが、そう思わせたのだろうか…



今年初めての、鈴蘭。

汚れなく、純粋で、凛とした美しさを奏でる、鈴蘭。


数本摘んで活けるだけで、あたかも鈴蘭畑にいるかのように錯覚をさせる花、鈴蘭。





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