花かがり 【短編集】
あれから3年経った今も、変わらない朝が来る。

ただそこに、一樹がいないだけ…。

後は、何も変わらなかった。



今も咲き続ける、鈴蘭の花。

見るたびに、一樹を思い出す。

肌の温もり。肌の匂い。
抱き締めた腕の強さ。
唇の柔らかさ…。


鈴蘭の香りが漂うたびに思い出す。

程よく焼けた肌。
奥二重の目。柔らかい耳たぶ。
大きな手。大きな背中。大きな大きな胸で、しっかり抱き締めてくれた一樹。


今も、一樹の幻を見ている。
どこかで、会えるような感じがして…

今も、彷徨い続いていた。


いつか、真っ暗な闇から一筋の光が現れるような気がするから…。

一樹を、また抱き締めたくて、感じたくて、『愛してる』と伝えたくて、夢幻の世界を彷徨っていた。


それなのに、伝えるコトも、会うコトも、感じるコトも出来ない。
もどかしさだけが溢れ、行き場の無い淋しさだけ涙となって、ただただ流れ続けた。





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