花かがり 【短編集】

◇ たんぽぽ ―タンポポ―

【たんぽぽ】



「君には、もっと僕よりふさわしい人がいる」
そう言って、彼は私の前から去っていった。

― 君に、ふさわしい人って… ダレ…?


彼は優しさだと思って、私にそんな言葉を言うけど、そう言われた私はどうしたらイイの?


そんな優しい言葉で。
思わせ振りともいえる言葉だけじゃ、私達の想い出は消えやしない。

それどころか、私達の想い出は益々、鮮明に昨日のコトの様に蘇る。


たんぽぽ畑で、月灯りを便りに愛し合った夜を…


海辺で戯れながら、抱き合った日を…

花灯り、桜散る樹の下でキスをした時を…


全部、忘れろというの?


貴方の髪も耳もホホも唇も瞳も…

貴方の腕も背中もヘソも脚も…

全て、想い出にしろというの?




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