花かがり 【短編集】
それからだ。

顔の無い男は、夜毎、唯子の前に現れた。
そして、襲い続けた。


「また、来るからな」
そう言い残し、いつも消える。

他には何も話さない。

ただ黙って、唯子の目を見つめ、犯し続けるのだ。

ただただ、無言で。
ただただ、犯し続ける。



恐怖の日々は、次第に薄れていった。
慣れていた、自分がいたのだ。
唯子は始めは恐怖で、ただただされるまま震えていた。

なのに、次第に恐怖は、快感に変わっていた。


唯子は、いつの間にか顔の無い男を、心待ちにするようになった。

夢でしか会えない男に、会うのが楽しみになっていたのだ。




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