花かがり 【短編集】
ある日、顔の無い男が顔を現した。


知らない顔…
のような気がした。
が…

でも、違った。



夜毎、現れる男は唯子が知っている男だったのだ。



唯子の以前の恋人。

唯子が、この手で殺めた男だった…



男の顔を思い出した時、唯子はゾッとした。


そして、今まで綺麗だった男の顔が一瞬にして血まみれになる。

あの日あの時の、映像が蘇る。



― キャッ! ―
小さな悲鳴を上げた。

逃げようとしたものの、躰が動かない。


男は唯子の躰にのし掛かり、薄ら笑いを浮かべて犯し始めた。


― やめて… ―
そう言いたいのに、声が出ない。


唯子の顔にポタポタと何が落ち出した。

男の顔から、無限に落ちる水滴。


汗なのか、血なのか、分からなかった。



「また、来るからな」
そう言って、また男は消えた。





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