花かがり 【短編集】
自由になった唯子の躰。

ポタポタと顔に落ちた水滴を、指先で拭う。


落ちた水滴は、もう既に乾いていた。

ホッとして、横に立て掛けてある鏡を見る。


― キャッ!! ―

唯子の顔には、ベットリと血がついていた。


急いで顔を洗う。
しかし、洗っても洗っても唯子についた血は落ちない。


― イヤ…、どうしておちないの… ―
肌が赤くなるまで洗う。
何度も何度も、石鹸で。
しかし、赤い色は洗う度に排水口に流れ続ける。




夢でしか会えない男を楽しみに待ち、抱かれる快感を帯びた時、一瞬にして苦しみへと落とされる。

残酷までの仕打ちは、唯子に殺された男の復讐だった。



血に染まる手で唯子を抱き、唯子を血で染める。
それが、唯子に殺された男の復讐。





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