花かがり 【短編集】

「店長っ！店長ぉ～！」
店の女の子が、出勤するなり血相を変えて店長を呼んだ。


「なんだよっ、ったく。客に聞こえるだろっ！静かにしろよっ」

「ち、違うの。だ、だから、違うのっ！」
どこから走ってきたのか、女の子は息苦しく渇いた喉で興奮状態で話していて、訳が分からなかった。


「だから、何？」
ハイハイ。といった店長。
―また、客とのもめ事かよ。勘弁してくれよ―
面倒臭い顔で、女の子を見る。


「テ、テ、テレビ…。テレビ…見たい」
まだ興奮状態の女の子。


「テレビは、控え室にあるから勝手に見たらいーだろ？」

「だから…違うの。店長とテレビ…見たい…」

「ハハハッ！な～に、言っちゃってんの？この娘は…」
店長は、おかしくなった女の子を、仕事のジャマジャマとシッシッという仕種で追い払う。


女の子は、それでも大声で叫んだ。
「違うのっ！来てっ！」
店長の腕を掴み、無理矢理控え室に連れていった。



いつも賑やかな控え室。

それが、今日に限って静まり返っていた。



「なに…」