花かがり 【短編集】
その夜、僕は夢を見た。


「待って!」
彼女の腕を掴み、引き寄せた。
華奢な体を、僕は抱き締める。
彼女は、仔犬のように小刻みに震えていた。

「大丈夫だよ」
彼女の色素の薄い瞳を見つめ、僕は彼女にキスをした。


そして、彼女の耳元に囁く。
「愛してる。ずっと、僕のソバにいてほしい」と…


うん…。
と頷き、頼りなく笑む彼女は、僕にすがり付くように、抱き付く。


「愛してる…」


… 愛してる …


… 愛してる …


目が覚めた。

愛してる。と、言っていたような気がする。


何度も、何度も、彼女に…。

『愛してる』と…



しかし、目の前には微笑む彼女はいない。
ただ暗い闇だけが、ひっそりと佇んでいた。


… 愛してる …

僕は、彼女を愛し始めていた。


… 愛してる …

君を…

名前も何も知らない、君を…



… 愛してる …




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