ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

名古屋駅に着いた頃には
もう、すっかり日は暮れ
ビル軍には眩いばかりの明かりが瞬いていた。


タクシーに乗り
京子さんの営む料亭の名を告げる。


名古屋でも有数の老舗料亭
確か最後に来たのは
中学生の時


都会の真ん中に現れた
緑に囲まれ堂々と鎮座する日本家屋。
その、物々しい存在感を醸し出す門を入ると
手入れの行き届いた庭園が広がっている。


「いらっしゃいませ」


着物姿の女性が
深々と頭を下げ
品のいい笑みで私を迎えてくれた。


「あの…私、江川美羅と申します。
京子さんにお会いしたいんですが…」

「大女将のことでしょうか?」

「はい…」


緊張気味に答える私に
女性は再び微笑み
「少々、お待ち下さいませ」
と、カウンターの電話の受話器を取る。


改めて辺りを見回す。


京子さん
こんな立派な料亭を仕切ってるんだ…
今更ながら凄いと思ってしまう
尊敬しちゃうな…


「お待たせ致しました。
どうぞ、こちらへ…」

「は、はい」


女性に案内され
小川のせせらぎを聞きながら
長い廊下を歩き
通された部屋


スーッと開いた障子の向こうで
姿勢良く座り
帳簿を眺めてる京子さん。


「いらっしゃい。美羅」


帳簿から視線を外す事無く
そう言うと、左手で畳を指差し
「ここにお座り」
と、低い声を響かせる。


「はい」


家に来た時の京子さんとは別人の様で
私の緊張は一気に高まる。


「突然来て、ごめんなさい」

「こんなとこまで来るってことは
何か大事な用件でもあるのかしらねぇ…」


やっと顔を上げ
横目で私を見つめた。


「うん…」


掛けていた眼鏡を外し
意味深な笑顔で京子さんは言ったんだ…


「聖斗のこと?」








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