ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】
いつしか、静かだった店内は
スーツ姿のサラリーマンで一杯。
若い女性は一人も居ないせいか
時折、変な視線を感じたりしてた。
「お姉さん、一杯どお?」
すっかり出来上がってる中年男性が
私の横に座り
下心見え見えって感じで
でお酒を勧めてくる。
でも、私も相当飲んでたから
「放っといて!」
と、強い口調で言い返し
顔を背けた。
それでもしつこく絡んでくる男性。
私がモロ嫌な顔をした時だった…
今まで忙しく大将の手間取りをしてた
カウンターの中の板前さんが
声をかけてきた。
「お客さん、すみません。
こちらの女性
嫌がってますので
席を替わって頂けますか?
ウチは、そういう店じゃないんですよ…
お気に召さなければ
どうぞ、お帰り下さい」
とても丁寧な言葉遣いだったけど
ゾクッとするよな圧迫感。
その、静かな迫力に
何も言わず席を立つ
中年男性
「あ、ありがとう…」
「いえ、お嬢さんも
少し飲みすぎですよ。
大丈夫ですか?」
さっきとは違って
とても優しい声…
「はい…」
板前さんが心配してくれたけど
その後も私は浴びる様にお酒を飲んだ。
忘れたい…
忘れさせて…
さすがに意識が朦朧としてきた…
そして、頭痛と喉の痛み…
また風邪がぶり返してきたのかな…
閉店まで居座り
カウンターに突っ伏してた私の肩を誰かが叩く。
さっきの板前さんだ…
「お嬢さん
もう、お店終わりなんですよ。
立てますか?」
「あ、あい…平気…れす」
「平気じゃなさそうだけど…」
薄れていく意識の中
私は、どうにかこうにか支払いを済ませると
店の外に出た。
酔いと風邪の熱で火照った体に
冷たい風が心地良く思ったのは数秒。
一気に寒気がして
息が苦しくなる…
立って…いられない…
そして
そこから記憶は、途切れていた…