ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

「家には、その彼が居るの…
私は小さい頃
両親を事故で亡くして
彼のお母さんと、私のママが姉妹だったから
引き取られて
一緒に住んでるんです」

「そういうことか…」


板前さんは
目を閉じ、ため息をつく。


「あ…ごめんなさい…
私、変な話しして…
本当に、ごめんなさい。
これ食べたら出て行きますから…」


私は急いで雑炊を食べると
せめてものお詫びにと
シンクにあった食器を洗い
身支度をする。


「お世話になりました。
それと、ご馳走様でした」


深々と頭を下げて
玄関を開け
足を一歩外に踏み出した…
その時…


「どこに行くの?」

「えっ?」


振り返ると
板前さんが腕を組んで
私を見てた。


「行く当てはあるの?」

「あ…はい」


本当は、行く当てなどなかった…


「本当に?」

「本当です」

「本当に、ホント?」

「…はい」


板前さんの疑いの眼差しに
堪らず目を逸らす私。


「嘘だね?」

「……」

「少しの間なら、構わないよ」

「えっ?」

「こんな、むさ苦しいアパートで良けりゃ
ここに居てもいいよ」


私は自分の耳を疑った。
「どうして?」
素直な気持ちが言葉になる。


「また、昨夜みたいなことになって
君に何かあったら
僕も後味悪いからね…

帰すんじゃなかったって
後悔したくない」

「そんな…
私のことなんて
板前さんには関係無いことですよ。
なのに…」


そう言った私の腕を
彼は、躊躇することなく強く掴んだ…


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