ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

次の日
記念すべきアルバイト初日。
少し緊張気味の私を気遣ってくれてたのか
今日の黒木さんは
やけに明るい。


「今日は予約の宴会が入ってるんだよ。
もう出るから…」

「うん。行ってらっしゃい」

「みわちゃんも頑張ってね」

「はい」


黒木さんを見送り
私もそろそろ出かけようと
鞄を取りに和室に行くと
鞄の横に紙袋が…


これって、昨日黒木さんが
持って帰って来たやつだ…


なんだろうと
中を覗き込む。


「あっ…これって…」


慌てて紙袋から中身を取り出し
畳の上に広げる。


「エプロンだ…」


もしかして…私の為に?
喫茶店でアルバイトするのに
私はエプロンも持ってなかった…


黒木さんは
そのことに気付いて
わざわざ買ってきてくれたんだ…


何も言わず、こっそり置いていくなんて
黒木さんらしい…


オレンジのチェックに
ヒヨコのアップリケなんて…


ハッキリ言って
全然、私の趣味じゃないけど
彼の気持ちが嬉しくて
涙が出そうになる。


いつもより早く家を出たのも
この為だったのかな…


すると、エプロンの下に何か白い物が見えた。


「なんだろう…」


エプロンを捲ると
古びた白い封筒が一通。
中から出てきたのは
現金2万円と、走り書きのメモ


"少なくて悪いが、これで必要な物を買いなさい"


「黒木…さん」


もう、誰も信じられないって
投げやりになってた私だけど
それは間違いだったのかもしれない。


黒木さんみたいな人が居るんだもんね。


でも、ここまで心配してくれる人なんて
そうは居ないよね…
本当に、いい人なんだな…


「有難う…黒木さん…」


私はエプロンを
ギュッと、胸に抱きしめた…





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