ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】
「黒木君がこの店に来たのは
5年ほど前だったかな…
私や、常連のお客さんが話し掛けても
返事もしない様な人でね。
変な人だと思ったよ…
それから、2年だ…
少しずつ話してくれる様になって
今じゃ、別人だな」
変な人か…
なんだか上杉君を思い出す。
彼も智可たちに
"変人"って、言われてな…
私って、そっち方面の人に縁があるのかも…
なんて、そんなくだらないことを考えてる私に
マスターは真剣な顔で話しを続ける。
「昔、色々あったみたいでね…
苦労してきたみたいだよ」
「苦労…ですか?」
「あぁ、私も詳しいことは知らないけど
そんな気がするね…」
「そうなんですか…」
マスターには
そう返事したけど
実を言うと、私も時折、黒木さんがフッと見せる
とても寂しそうな顔が気になってたんだ…
その後
30分ほどマスターと雑談をして店を出た。
アパートまでの約10分。
私は、この時が一番嫌いだ…
一人で夜の街を歩いていると
思い出すのは
決まって聖斗のこと…
聖斗…今、何してる?
理絵さんと仲良くやってるのかな…
もうすぐ自分の子供が産まれてくるんだもんね。
私のことなんか
思い出す暇もないだろうな…
聖斗が、パパか…
パパ…か…
やるせない想い。
どうしようもない現実だと分かっていても
頭の中から
まだ、聖斗の存在を消すことができないでいる
未練がましい私。