ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】
呆然と荷物を見つめてる私に
優斗が「これ、手紙じゃないのか?」と
段ボール箱の中から
2通の封筒を取り出した。
「手紙?」
「あぁ、美羅宛てになってる。
もう一通は…えっ!俺?」
優斗と顔を見合わせ
お互いの名前の書かれた封筒を開けた。
その手紙には
仕事を辞め、引っ越すことになったと
丁寧な字で書かれてあった。
引っ越し…そんな…
もう、あのアパートには戻れないってこと?
黒木さん、居なくなっちゃったの?
「美羅…これ…」
優斗宛の手紙が
私の目の前に置かれる。
お詫びの言葉と
私の力になってあげてほしいと
短い文が綴られていた。
「あの人、美羅の為に引っ越したのかもな…」
「私の為?」
「うん、美羅をこの家に帰す為に…」
「イヤ…」
「美羅」
「イヤだ!イヤだ!
イヤぁーーー…」
裸足のまま
外に飛び出そうとした私を
優斗が引き止める。
「放して!優斗!」
「どこ行く気だ?」
「アパート、黒木さんのアパート…
まだ居るかもしれないじゃない」
「もう、居ないって…」
「そんなの、行ってみないと分かんないでしょ?
放して、優斗」
泣きながら暴れる私を優斗は懸命に押さえ込み
「美羅、落ち着け!」
と、繰り返す。
「黒木…さん…うぅっ…」
「分かったよ。分かったから
もう泣くな…
黒木さんのアパートに連れてってやるから…」
優しく私の頭を撫でてくれる優斗。
私は頷き
階段を駆け上がると
急いで着替えを済ませ
優斗の車で、黒木さんのアパートに向かった。
お願い…アパートに居て…
祈りながら
黒木さんの部屋の前に立つ。
表札が…無い…
電気もガスも止められてる。
彼は、もう居ないんだ…
胸にポッカリ穴が開いたみたいで
大きな喪失感が
全身の力を奪っていく…