ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】
思考回路が停止した私に
京子さんは、驚くほど冷静に話し掛けてくる。
「まあ、今の聖斗に何を言っても無駄だね。
可愛さ余ってなんとかって言うだろ?
聖斗が落ち着くの待つしかないよ。
あんまり気にするんじゃない。
いいね、美羅」
楽天的な言葉に
頷くことなど出来なくて
ただ、泣き続けている私の背中を
優しく摩ってくれる京子さん
「聖斗も、まだまだ子供だね。
困ったもんだ…
折を見て、また話しするから」
京子さんは
軽く考えていたんだろう…
時間が経てば聖斗の気持ちも落ち着くと
でも、ことはそう簡単ではなかったんだ…
翌日、京子さんが聖斗のマンションを訪ねたが
中にも入れてもらえず
追い返された。
少し焦りを見せ始めた京子さんが
度々、聖斗の携帯を鳴らしたものの
着信拒否され
とうとう名古屋に帰る日が来てしまった。
「美羅、ごめんね…
聖斗があそこまで頑なだとはねぇー…」
京子さんが悪いんじゃない。
「うぅん。
もういいいよ…
色々、有難う」
一生懸命、笑顔を作ってみた。
京子さんを駅まで送った帰り
つい、来てしまった薬局
白衣を着た聖斗の姿が、ガラス越しに見える。
街路樹の陰に隠れ
聖斗を盗み見してる自分が情けなかった。
私、何やってんだろう…
思い直して帰ろうとした時
後ろから聞こえてきた声
「あら?美羅ちゃんじゃない」
「えっ?」
「こんなとこで会うなんて…
何してるの?」
それは、ベビーカーを押し
不審な表情をした理絵さんだった。
「何…見てたの?」
そう言いながら
私が視線を向けてた方向に目をやると
眉間に深いシワを刻み
再びこちらを向く。
「まさか…聖ちゃん?」