ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

「まさかー!そんなことないよ」


笑って、そう否定したけど
智可の言う通りだった。


たかが指輪…なのかもしれない…


でも、優斗からの指輪を薬指に近づけると
必ずと言ってほど
あの指輪への未練が湧きあがり
その行為を邪魔するんだ…


自らの手で、この薬指から引き抜き
投げ捨てた指輪の行方が分からない。


聖斗の愛も、あの指輪も
私の元から消えてしまった…



「本当に、これでいいのかな…」


智可の言葉が
深く胸に突き刺さる…


そして、そんな暗い雰囲気を一変させたのは
トイレから戻って来た恵美里の明るい声。


ホントは辛いはずなのに
強がって
ワザと陽気に振る舞う恵美里


「ねぇ、美羅
私さ、懐かしい人に会ったんだよ!
誰だと思う?」


唐突な質問に
首を傾げると
恵美里は得意げに笑い


「元カレ~上杉君だよー!!」
と、おどけて見せる。


「上杉…君?」

「そう!彼の家って、ウチの近所だからさー
偶然、会っちゃって。
彼、ナント今ね、弁護士してるんだって!
凄くない?」

「弁護士?上杉君が?」

「うん。
大学4年の時
司法試験に一発で合格して
卒業してからは
こっちに帰って来て
弁護士事務所に就職したらしいよ」


上杉君が…弁護士に…
でも、彼にとっては
将来、政治家になる為のステップの一つに過ぎないのかもしれない。


どんどん遠いとこに行っちゃうんだね。
上杉君


「それでね、美羅はどうしてる?って聞かれたから
もうすぐ結婚するよって言っちゃったんだ…
マズかった?」

「あ…うぅん。
全然、大丈夫だよ…ホントのことだし…」


平気な顔で恵美里に笑い掛け
グラスに残っていたビールを
喉に流し込む。


上杉君
あなたは今、幸せですか?


あなたに支えられ過ごした高校時代
私は決して忘れないからね…


もう2度と会うことはないんだと
彼の幸せを願った私だったけど
後に、思わぬ形で再会することになろうとは
この時の私は想像も出来なかったんだ。


・・・




< 269 / 379 >

この作品をシェア

pagetop