ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】
「聖斗…放して。
瑠菜ちゃんにミルクあげないといけないの」
「マンションまで車で送る」
「でも…」
「瑠菜の世話してもらってんだ。
その位しねぇとな…」
…瑠菜ちゃんの為…だよね
駐車場に止めてあった聖斗の車まで
無理やり引っ張られる。
そして、瑠菜ちゃんを抱き上げると
慣れた手つきで
ベビーカーをたたみ
車のトランクに入た。
「乗れよ」
「…うん」
聖斗の車に乗るのって
いつ以来だろう…
後部座席に瑠菜ちゃんを抱き座ると
ほんのり
懐かしい香りがした。
この、甘くて、フルーティーな
芳香剤の香りは…
聖斗が車を買って
初めてドライブに誘ってくれた時
立ち寄ったカーショップで
私に選ばせてくれたやつだ…
まだ、変えてなかったの?
あの頃の私は、まだまだ子供で
早く聖斗につり合う大人の女性になりたくて
焦って、背伸びしてた。
もしも今、あの頃に戻れるなら
素直に、有りのままの自分で
聖斗に『好き』だって言える気がするのに…
もう、何もかも遅すぎる。
そう言えば
この芳香剤の商品名は…
"ハッピー・フローラル"だったっけ?
聖斗に誘われたのが嬉しくて
当時の私の気持ちそのものだと思い決めたんだ…
まさか、数年後に
別々の人と結婚して
他の女性が産んだ聖斗の子供を抱いて
この車に乗ってるなんて
思ってもなかった…
運転する聖斗の後ろ姿を見てると
色んな想いが頭を過る。
「着いたぞ」
「あ、うん」
益々、機嫌が悪くなり
泣き出した瑠菜ちゃんを私が抱き
聖斗がベビーカーを抱え
マンションの地下駐車場から
直接エレベーターに乗った。