ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

「そろそろお時間です」


式場の係りの女性が
私にそっと、左手を差し出す。


「はい…」


女性にとって
人生で一番輝く時
悦びに胸躍る瞬間


ドレスの裾を気にしながら立ち上がると
揺れる長いベールが
ハラリと波打つ…


ゆっくり、ゆっくりと
歩を進め
やがて目の前に
閉じられた大きな扉が現れる。


その扉の前に立つ男性が
私を見つめ
誇らしげに微笑むと
両手を広げ私を軽く抱きしめた。


「美羅ちゃん…
とっても綺麗だよ」

「…伯父さん」

「今日からは、お父さんと呼んでくれるね?」

「うん…
今日から伯父さんの娘になるんだね。
宜しくお願いします…
お父さん…」


そう、私には
バージンロードを一緒に歩いてくれる
父親はいない…


私の花嫁姿に
涙を流してくれる母親も
いない…


伯父さんの左腕に
自分の腕を絡め
浅い深呼吸をして
前を向く


パイプオルガンの演奏が聞こえたのと同時に
目の前の扉が静かに開き
一歩、また一歩
十字架に引き寄せられる様に
歩き出す。


真紅の絨毯
その先で緊張気味に
私を待つ優しい瞳の彼


私の…夫…





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