画面越しの恋人
 毎日帰宅後にゲームをプレイして、「よしのれいこ」と一日分の会話をする。翌日には前日プレイした分の会話を実物の芳野麗子と交わし、親交を深める。
 こうしてボクは順調に芳野麗子と仲良くなっていった。
 社交能力に乏しいボクではあったが、あらかじめ予定されている台詞を読み上げるだけで良かったため、会話に詰まることはなかった。
 地味で目立たないボクが学年のアイドルと急激に親密になっていくことを不審がる生徒は多かったが、ボクが誰かの目の敵にされることはなかった。
 ボクが芳野麗子のお気に入りだからだ。
 ボクをおとしめる行為は確実に芳野麗子の反感を買う。逆にボクと行動を共にすれば、彼女に近付くチャンスもあるかもしれない。いままでボクの存在に気付きもしなかったクラスメートが、途端にボクに媚を売り出すのがおかしくて堪らなかった。
 そして芳野麗子と知り合って半年が経過した今日。ボクは彼女に呼び出され放課後の美術室にいた。
< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop