画面越しの恋人
『よしのれいこ:ありがとう、手伝ってくれて……。わたし、C組のよしのれいこ。あなたはなんて名前なの?』
 数秒の間のあと、彼女の表情が愛らしい笑顔に変わる。どうやら主人公が名前を教えたらしい。
『よしのれいこ:ありむらくんって言うんだ。よろしくね』
 先に進もうとボタンを押したところで、画面が真っ暗になった。次のグラフィックを読み込んでいるのかと思ったのだが、待てども待てども画面が変わる気配がない。
「げっ、壊れてんのかよ……」
 盛大に顔をしかめ、ボクは持っていたコントローラーを放り投げた。せっかく憧れのひとによく似たヒロインと出会えたというのに、これ以上プレイできないなんてあまりに酷だ。
 しかしどうにも腑に落ちないのは、ムービーで彼女を見た覚えがないことだった。あんなに芳野麗子そっくりなら、すぐに目がいきそうなものだが。
 首を捻りつつ、どうせもうプレイできないのだから、とボクは考えるのをやめた。
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