画面越しの恋人
「ありがとう、手伝ってくれて。わたし、C組の芳野麗子。あなたはなんて名前なの?」
 昨日目で追った台詞が、声となって耳から侵入する。返答するために口を開いたが、唇が細かく震えていた。
「び、び、B組の……あり、ありむら、有村孝太………」
 やっとのことで言い切ったボクの名前を聞き、彼女の形の良い唇がきゅっと持ち上がる。
「有村くんって言うんだ。よろしくね」
 ゲーム画面で見たものより何倍も可愛らしい笑顔を見せ、「本当にありがとう。気を付けて帰ってね」と言うと、再びプリントを抱え彼女は立ち去った。
 しばらく呆然とそこに立ち尽くしてから、ボクはようやく動けるようになった脚で全速力で帰宅した。
 フリーズしたまま放置していたゲームを手に取り、ボタンを押す。何事もなかったかのようにあっさりとゲームは起動した。
 ゲームのなかでの日付は翌日に変わり、どうやら時間的には昼休みにあたるようだ。
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