失踪1016
安齋ゆき[side:表]
ー…ピピッピピピッピピピピピピピピッピピピピピピ
耳障りな電子音に起こされ周りを包む生温い空気に私は気を落とす。
「……朝か。」
窓からのぞく日差しが眩しくて思わず目を細める。
おもむろにつけたTVのワイドショー。左端上のデシタル時計は9:45を指していた。
「ー…この時期になると思い出しますね。あの事件のことを。」
「あーあの1016失踪事件ですか?生徒が山奥で消えてしまったやつ。」
「えぇ。今年であの事件から十年がたちますが、今だに生徒達は誰ひとり見つからないとか。」
「まさに神隠しですよね〜。」
コメンテーターらしき人物とニュースキャスターが笑いながら昔のことを思い出すように言う。
その光景があまりにも憎たらしくて、思わず画面へ空き缶を投げた。
「何が…何が思い出しますよね…よ。」
ずっと奥に捩じ伏せていた心の傷がまたぱっくりと割れたように胸が痛む。
いくら時が過ぎても忘れなどしない。
それが十年でも、二十年でも。
私の心に深く刻まれた傷。
十年前のあの事件のことは絶対に忘れなどしないんだ。