この想いを君に… −三つ子編−
「…どうして?」

最初に出た言葉がこれだ。

「夏休み最後の思い出に昨日の夜、夜行バスに乗っちゃった」

セミロングの綺麗な髪の毛が風に揺れる。

「…親は知ってるの?」

「うん、2時間に1回、連絡入れないと…あっ!!」

八尾は慌ててケータイを取り出すと親に電話を入れていた。



…信じられない。

一人で遠い場所から夜行バスに乗って。

レースなんか全く興味がないはずなのに。

思い出作りに来るなんて。



「泊まる所はあるの?」

「インターネットカフェにでも…」

「この近辺にあると思う?」

山に囲まれたこんな所に…あるはずない。

「あ、じゃあ近場の街まで出る」

「…今日、バスの運行もないと思うんだけど。
…そもそも夜行バス降りてからどうやって来たの?」

近くの駅からでも車で1時間くらい掛かる。

「…タクシー」

八尾は頭をかいて

「タクシー代に結構掛かっちゃってホテル代がかなり厳しくて…
ネカフェやカラオケボックスならいけるかなって」

俺は思わず八尾の手を握りしめて

「こっちにおいで!!」

そう言って引っ張った。
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