この想いを君に… −三つ子編−
八尾が一瞬『えっ?』という表情を見せた。

…失敗したかな。

俺、早まったー???

思わず俯く。

しばらく沈黙。

今回こそはヤバいぞ。重い沈黙だ…



「で…」

口を開いたのは八尾だった。

俺は顔をゆっくり上げる。

「門真くんは、どうしたいの?
優勝したら…私に告白しようと?」

そう、したい事は告白だけじゃない!!

我に返った。

「もちろん、それもあるけれど。
…もし八尾が迷惑じゃなければ俺と付き合って欲しいんだ」

八尾は一瞬、俺から目を外した。

「…全然迷惑じゃない」

下を向いたまま、八尾は続ける。

「私で良ければ」

上目使いで八尾は微笑んだ。



やがてサイティングラップが始まり、JSBのライダー達が目の前の金網の向こうを走行していく。

祥ちゃんも気合いを入れて走行している。

それを見届けてから俺は八尾に手を差し出した。

八尾も照れくさそうに俺の掌を軽く握った。



ガレージに戻るとパパが真剣な眼差しでモニターを見ていた。

そっとその隣に立つとパパがゆっくりと俺を見る。

左手親指を立てて『上手くいったよ』と知らせるとパパは嬉しそうに頷いて『おめでとう』と声を出さず口だけを動かした。

口元に笑みを浮かべる。

パパがよくする仕種。

それが胸に焼き付く。

そしてパパは再びモニターを見つめた。





JSBは祥ちゃんの圧勝。

チームは歓喜に沸いていた。





けれど、それから一週間もしないうちにパパは。

この世からいなくなった。



俺にとっては本当に大切なパパ。

ライダーとしても人生の先輩としても。

まだまだ教えて欲しい事がいっぱいあったのに。

いなくなってしまった。





…せめて。

孫の顔くらい見てから行けよ!

なんて。

何年先の話かわからないけれど、何年先まで生きて欲しかったな。





暗闇の夏がもうすぐ終わる。
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