この想いを君に… −三つ子編−
外に出ると雪は降っていないけれど、少しだけ積もっていた。

でも雪合戦をする程でもない。

俺とミチルは手を繋いで歩く。

「知樹のお姉さんってお父さんが違うの?」

歩いていると突然、ミチルが聞いてきた。

「うん、違うよ。
むっちゃんの本当のパパは19年前の明日の朝に死んだんだ」

「そうだったんだ」

ミチルは申し訳なさそうに頭を下げた。



そういえばパパが生きていた時に言っていた。

『拓海が生きていたら真由を世界へ連れて行けただろうね』

それほど、才能のあるライダーだった。

以前、偶然にも店に残っていた映像に拓海くんのレースがあった。

今、この人が生きていたら…ロードレースもまた違った形になっていたかもしれない。

レースを知らない人を引き付けるライディングがそこにあった。

ママがこの世界に引き込まれたのも頷ける話だ。

俺が目指すべき人物の一人だなって思った。

ただ、人の運命ってわからない。

いくら恵まれていても。

その命は限りあって、いつ消えてもおかしくない。



だから…



「じゃあ、また」

ミチルの家の近くになって足を止める。

「ちゃんと勉強しろよ?」

柔らかそうな頬に指を当てるとミチルは一瞬、ビクッとして驚いていた。

「うん」

ミチルは頬に当てた俺の指を軽く握る。

「またわからなくなったらいつでも連絡ちょうだい。
俺の家でも、図書館でもまた教えるから」

その瞬間、ミチルの唇に軽くキスをする。

ミチルは一瞬、何が起こったのかわからない表情になる。

「じゃあ、オヤスミ」

俺はいつまでもぼんやりしているミチルを家の方向に向けてその背中を押した。

「あ、うん、おやすみ」

ようやくミチルは歩き始めた。

俺は笑いを堪えながら反対方向に歩き出した。
< 147 / 161 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop