この想いを君に… −三つ子編−
「桜さあ…」

俺はフロアに入場してくる桜をぼんやりと見つめながら智道に話掛ける。

「小さい時に少しだけ新体操を教えてくれてたロシア人がいたんだけど」

入退場の場所にそのロシア人、アンナが立っている。

「ほら、あの人」

指は指さずに目線で智道に教える。

「うん」

智道も彼女を確認した。

「桜はあの人のお陰で新体操の才能を伸ばしたんだけど、2年くらいでロシアに帰ってからは音信不通」

俺は真っすぐアンナを見つめる。

確か前に日本に来ていた時、何度か家に遊びに来ていたから何となく覚えている。

「日本人と結婚してまた日本にやって来たんだ。
そしてまた桜のコーチをするんだって」

「ふーん…」

智道はアンナを見つめた。

「ひょっとしたら…」

俺は隣にいる智道に少しプレッシャーをかける。

「桜は本当に世界で有名な選手になるかもしれないよ。
元々才能あるし、スタイルにも恵まれている。
コーチも良いコーチが付いた」

「うん…」

智道は俺が何を言ってるのかさっぱりわかってないみたい。

「有名になるという事はお前達が付き合っている事もネタにされるかもしれないんだぞ?」

桜が何かの間違いでオリンピックなんて行ったりなんかしたら…

ますますヤバイ。

「あ、そうだね、気をつける」

智道はあっけらかんとしていた。

俺、先行き不安…
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