記憶 ―砂漠の花―[番外編]


俺は、
よく同じ夢を見る。

…また、だ…。




砂漠…

黄色の砂の山が、
音もなく、さぁ…と崩れる。


崩れかけた灰色の壁。
…これは、城壁だろうか。


その前には、
砂漠に似つかわしくない花たち。


…花壇だ。


ヤシの樹。
白い花、黄色い花。

紅い…花…



その花壇の前に、
佇む黒い髪の女性…。


俺は…、

その女性を、後ろから静かに見つめている。


この気持ちは、
……何だろうな。

せつない、苦しい…


触れたい…


そう伸ばしかけた手を、
握りしめて、
力なく、下におろす。



触れたい、
抱き締めたい。



『…アズ…』


君の青い瞳が、俺に向いた。


……なぜ、

俺の名を知っている…?


『…アイリ…』


俺が、彼女をそう呼んだ。


知らないはずの彼女。
知らないはずの彼女の名前…。



『…もうすぐだよ…』


そう優しく微笑む知らないはずの彼女は、なぜか懐かしく…

俺の心を締め付けた。


愛しい、
抱き締めたい…

あの笑顔を、
俺の胸に、閉じ込めたい…



…アイシテル…




< 32 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop