記憶 ―砂漠の花―[番外編]
いつも通りの俺の切り返しに、彼女は唇を尖らせた。
奈央ちゃんと絵美の他に、
もう一人。
…なんだ。
全員起きてるじゃないか。
「はい、皆さん…お家に帰りますよ?」
そう言う俺の視線が、初めて会う友達に向いた。
――ドクンッ。
彼女と目が合った瞬間、
心臓が、
再び跳ね上がる。
肩にかかる暗め髪色が、なぜか「あの子」と重なったんだ。
「はぁ――い…」
絵美と奈央ちゃんのふて腐れる声が聞こえる。
…まさか、な?
瞳の色は、黒。
そりゃあ、ハーフでもない限り青いはずがない。
なのに、
俺は、
彼女から目が離せなかった。
それは多分、
お互いに、だった。
――ドクン…ドクン…
鼓動が早まる。
苦しい。
胸が、苦しい…
どうして…、
彼女を見てそうなる?
この想いは、
さっき治まったはずなのに。
「…あず…さ、さん…?」
彼女が、俺の名前を呼んだ。
大きく開いた俺の瞳が揺らぐ。
互いの息を飲む音。
俺を知っている――?
あぁ、絵美から聞いたのか。
冷静に、冷静になれ。
俺は。
俺は、彼女を知らない。
いや…
多分、知っているんだ。