記憶 ―砂漠の花―[番外編]
…知らないはずなのに。
その俺を呼ぶ可愛らしい声を、
俺は知っている。
俺を見つめ返すその瞳は、
優しく、でも強く。
その瞳が俺を映す事に、
俺はいつも安心するんだ。
俺は、
彼女を知っている。
「…君の…名前は…?」
俺は微かに唇だけ動かせて、そう聞いた。
体なんて、
動かなかった。
君の名前は、
聞かなくても…
分かる気がしていた。
「…愛里…。」
「…アイリ…ちゃん?」
――…ほら…。
ほらね、知っている名前。
なぜか…
目の前の君の瞳から、
涙が溢れる―――
その涙の意味を、
俺は分かっている気がした。
彼女の濡れる頬に、
そっと…
そっと、触れてみる。