ダンデライオン~春、キミに恋をする~

いくら周りを見渡してみても響の姿が見当たらない。


「……やだ」



どうしよう……。
あんなにはぐれないようにって言われてたのに。

はぐれちゃった……。



背の低いあたしの目線からは、大人の男の人がいたら、視界をふさがれてしまう。


巾着の中から携帯を取り出して、画面を開く。

簡単に見つける事の出来た響の名前。


……って、ダメじゃん。
よく見ると、電波が全然届いてない。


こうなったら、どこか高いとこに登らなきゃ。
そしたら、きっとあのふわふわの髪の毛を見つけることが出来る。


あたしはなんとは人並みをぬってその流れから抜け出す。
もう、浴衣になんか構ってらんなくて。
裾を両手で掴んで歩いた。


「……高いとこ、高いとこ」


視線の先に、たくさんの『かざぐるま』が見えた。
露店が並んでる境内のさらに奥に、色とりどりの風車が並んでる。

ゆるい風に、何千本の風車達はカタカタと涼しげな声で鳴いていた。


その足元は少しだけ高くなっていて。
あそこなら、あたしでも頭1つ分くらい抜けれそうだ。


予想通り。

たくさんの人の表情を見ることが出来た。


この狭い神社に一体どれだけの人が詰め込まれてるんだろう。

だけど、その誰もが楽しんでいて。
笑ってる。



「……響……どこ?」



携帯を取り出してみては、響を呼び出してみる。


だけど受話器越しに聞こえるのは、機械的なアナウンスで。

やっぱり電波入らないんだ……。

どれだけそうしていたんだろう。



……どうしよう……。

響、怒ってるよね?

絶対、呆れちゃってるよ……。
もしかしたら、愛想つかして帰っちゃったかもしれない。


耳元で聞こえる風車の音が、なんだかさみしくて。
こんなにたくさんの人がいるのに。

響とはぐれたあたしは、まるで世界に一人ぼっちになっちゃったみたいに心細くて。


視界がジワリと滲んだ。



――その時だった。


不意に鼻の頭に何かが落ちてきた。



「……っ……」




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