ダンデライオン~春、キミに恋をする~

・雨と泪


……帰ろう。

なんだか無性に悲しくて。
唇を噛み締めたその時――……




――……パシャ

水を弾くような音に、空から視線を落としたあたしは、息を呑んだ。


……うそ





「……響……」

「なにしてんの。 こんなことで」



滴り落ちる水滴を手の甲で拭いながら、響は眉間にグッとシワを寄せた。

そう言った声が低くて、ビクリと体が震える。



「探した。急にいなくなるなよ」

「……ご……め」



震える唇でなんとか声にする。
だけどその声も消えちゃいそうなほど弱くて。

自分でも驚いた。



「…………」



響はそんなあたしを見て、複雑そうに顔をしかめるとクシャリと髪をすいた。



「って、あー……と、ごめん。 そうゆう事が言いたかったんじゃなくて……」

「え……」




響は濡れた髪をすきながらあたしの前までやってくると、気まずそうに視線を落とした。



「俺が一緒にいたのに……不安にさせてごめん」

「……」

「変なヤツに連れてかれてたら、ほんと……どうしようかと思った」



響はそう言うと、眉を下げた。


もうしっかりと響の顔を見ることが出来ない。
涙と雨で滲んだ世界。

今何かを口にしたら、あたしの心の中のいろんな感情が出てきてしまいそうだった。


びしょ濡れの髪や服が、愛おしくて。
高いことにいるあたしと同じ目線の響が愛おしくて。

その体を思い切り抱きしめたくなったんだ。



< 120 / 364 >

この作品をシェア

pagetop