ダンデライオン~春、キミに恋をする~
商店街から15分の距離。
閑静な住宅街の、コンクリートがむき出しの真新しいアパートの3階。
せっかくの浴衣もびしょ濡れ。
肌に張り付いて気持ち悪い。
だけど、あたしはその場に貼り付けられたみたいに動けなくなっていた。
「散らかってるけど、入って」
そう言った響は、大きなシルバーの鍵で茶色のドアを開けるとさっさと靴を脱いで暗闇に消えてしまった。
「……」
……ど、どうしよう!
どうするっ、あたし!?
まさか、響の家に来る事になるなんて……。
まるで予想してなかったんですけどー!
緊張で意味もなく周りをキョロキョロと見渡した。
コンクリートの壁にうちつける雨音が、さっきより激しさを増したような気がする。
「……」
帰れない……。
思わずゴクリって唾を呑み込んだ。
喉がカラカラだ。
「なにしてんの?」
「ひゃ!」
って、わーん。
急に玄関に現れた響に驚いて、変な声出しちゃった。
頬がジワッと火照るのを感じて、慌てて俯いた。
「……。ほら、とにかく入んな?」
「……う、うん」
目を瞬かせた響。うう、自意識過剰もいいとこだ。
黙ったまま固まってるあたしを見て、ふっと口元を緩めた響は、バスタオルを投げてよこした。
咄嗟にそれを受けとって、オズオズと1歩を踏み入れた。