ダンデライオン~春、キミに恋をする~

「……」


顔を上げると、すぐに響と視線が絡まった。


「……響?」


動揺して何度も瞬きを繰り返すあたし。
少しだけ小首を傾げて。
揺れる前髪の隙間からあたしを真っ直ぐに見つめるその瞳に、ドクンドクンと心拍数が加速していく。


響の手があたしの髪に触れる。
長くて華奢な指が、真っ黒なあたしの髪をすくった。



ドクン

ドクン



……なに、これ。


まるで全身が心臓になっちゃったみたいに、うるさいくらいに耳元を叩くその心音に。
思わず目眩のような感覚になる。


響は、なにを言うわけでもなく。
ただ、あたしを見つめてる。

髪の1本1本にまで神経が通ってて、響に触れられたとこから電気が走ったみたいに痺れてく。


口の中がカラカラ。
唇が震えだす。

長いまつ毛の奥の、色素の薄い瞳の中に今にも泣き出しそうな程情けない顔をしたあたしが映ってる。



「……あの……」



どれくらいそうしてたんだろう。

耐え切れなくて、そう言った瞬間。
血色のよい、綺麗な響の唇が少しだけ開いて小さく小さく息を吐き出した。

そして、スッと目を細めると口の端をキュッと持ち上げた。



「……やっぱり」

「へ?」



“やっぱり”?


やっぱりってなにが?



響はそう言うと、首を傾げてあたしを覗き込んだ。



「椎菜ってさ、なんかに似てるよなー」

「え?」



でも、もし……
もし、響があたしの事だけを考えてくれてる時間があったとしたら……。



それがどんな理由でさえ、嬉しいって思っちゃうあたしは重症だ。


それにしてもなんだろぉ。
響は、あたしをどんなふうに見てたのかな?

女優さん、かな?
きゃーーー。て、照れるってば。




「たんぽぽ」





……。


…………たんぽぽ?






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