ダンデライオン~春、キミに恋をする~
えええ?
あたしって、人ですらないの?
響の中で?
な、なんか、急に目眩が……。
意味がわからずにきょとんとしてると、響はソファの背もたれにもたれながら楽しそうに言った。
「タンポポってさ、黄色い花で小さくて。 かわいい花だろ?」
「……え? う、うん」
「だけど、別名なんて言うのか知ってる?」
響はそう言って、片足を自分の体に引き寄せるとその上に肘をついた。
楽しそうにあたしを覗き込んだ響。
なんだかその姿が、無邪気な子供みたいに見えて胸がキュンって跳ねた。
ひとつひとつの仕草にドギマギしながら、あたしはふるふると首を横に振る。
「……なんて言うの?」
「ギザギザしてる花弁が、ライオンの牙に似てるから“ダンデライオン”って言うんだって」
「だんで……らいおん?」
そうなんだーってあたしの頭の中のたんぽぽを思い浮かべる。
それはやっぱり踏まれてもめげない、健気なかわいいたんぽぽで。
とってもライオンなんかに見えないよ。
「って。あ、あたし、ライオンみたいだってこと?」
「え?っはは。違うよ、そーじゃなくて。小さくて可愛いって方」
「……なにそれ」
唇をツンと尖らせると、響はなぜか楽しそうに目を細めた。
「見た目はすごくかわいいんだけどさ、実は“思わせぶり”って花言葉があるんだよ」
膝に乗せた手で、髪をクシャリとすきながら。
響はそっとキッチンの方へ視線を送った。
「他の草花のこと、よくわかんないんだけど。 俺、たんぽぽだけは昔から気に入ってて。 どんな環境にも負けないタンポポが、好きなんだ。 その花言葉もね」
呟くように言った響が見つめてたのは、ちょっとだけ古ぼけたような大きく引き伸ばした写真だった。
色あせてしまったその写真。
黄色いたんぽぽと、真っ青な空に綿菓子みたいなちぎれ雲が、そこに収まっていた。