ダンデライオン~春、キミに恋をする~
・七夕の夜、バスは行く。
こんな感情があるなんて。
あたし自身知らなかった。
「……」
「……」
響が誰を好きなのか、そんなのわかってる。
だけど、止められない。
止めたくない。
何も言わない。
何もしない響。
それが、きっと彼の答え。
顔を上げたら、きっと困ってる。
困って、あたしの気持ちなんかお見通しの響は『ごめん』って哀しく笑うんだろう。
ギュッて腕を回した時、驚いてあたしから離れた響の両手が。
たらりとうな垂れてる。
「…………」
「…………しい…な」
まるで、奥の奥から搾り出すような、そんなかすれた声が、あたしの耳元をくすぐった。
そして、意を決したようにそっと肩に触れた手。
自分から求めたのに、その想いとは裏腹にあたしの体はビクリと震えた。
――……ダメだ。
こんなあたしじゃ、きっと響は鬱陶しく思うに決まってる。
せっかく『ウソ』でもいいからそばにいれる権利もらえたばっかりなのに。
「……椎菜……」
「び……びっくりしたあっ。 転んじゃうかと思った。ありがとうね、ってゆか響さ、どんな香水つけてるの? もう超いい匂いだから思わず真剣に鼻くっつけちゃったよー」
響が何かを言いかけたけど。
今のあたしにはそれを聞く勇気がなくて。
苦しい言い訳……かな?
ガバって感じで、響を見上げるとあたしは満面の笑みでもう一度響のTシャツに顔をくっつけて見せた。
ハイテンションのあたしをジッと見つめる響。
その瞳を避けるように、あたしはペラペラ喋り続けたんだ。
「それとも、洗剤の匂い? だったら教えて欲しいなーっ。 でも響、1人で頑張ってるのに洗濯もちゃーんと自分でやってるんだ。 あたしも見習わないとなー、あ!浴衣乾いたかな、ちょっと見に行って……………っ……」
一瞬、なにが起きたかわからなかった。
あたしは、暖かくて甘い香りに包まれていた。