ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「……あ、あの……」
その大きな手で、すっぽりとあたしを包む。
突然の事に、緊張して固まったあたしなんかお構いなし手でその腕の力がキュッと強まった。
え?
え、なに?
もしかして、あたし、うるさかったかな?
だから、黙らせるために……こうしてる、とか?
で、なかったら……そうじゃなかったら……。
ドクン ドクン
「ひ、響?」
淡い期待と不安がよぎる。
背中に手を回すのはなんだかいけない気がして。
Tシャツの袖を遠慮がちにクイッと引っ張ってみた。
それに応えるように、響は少しだけ腕の力を緩めるとあたしを真上から見下ろした。
長い前髪から覗く、色素の薄い瞳が伏目がちに揺れてる。
そして。
綺麗な形の唇が、ふいに動いた。
「椎菜がいけないんだ」
「へ?」
まるですねた子供の様に、その唇を尖らせて見せた響は言って目を細めた。
あたし?
あたしがって、なんで?
意味がわかんないのは響だよ。
だって、あたしが『イケナイ理由』が思い当たらない。
少しだけ開いた響との距離から見上げる。
シンと静まり返った室内。
時計の秒針が、まるであたしの心臓のように速く時を刻んだ。
コチコチコチ……
ドクドクドク……
その瞬間。
真っ黒な瞳に射抜かれたみたいに。
あたしの時は止まった。