ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「……そ、れじゃ、また!」
急かされるように、何かを吹っ切るようにあたしは足を蹴ってバスに乗り込んだ。
「ん。気をつけてね」
見上げてる響はポケットに突っ込んでいた手を出すと、顔の横でワキワキとして見せた。
真っ暗になった町で、響のいるその場所だけまるでスポットライトが当たってるみたいに明るくなってる。
あたしは1番後ろの席に座ると、窓を開けた。
生ぬるい風が、響の髪を揺らしあたしの髪を滑る。
「……」
別にコレが最後の別れってわけでもないのに。
なんだか無性に寂しくて。
来週になれば学校でまた会えるのに、これで離れてしまうのが淋しくて胸がキュってなってどうしよもなかった。
なんでこんなに焦っちゃうんだろう。
黙ってあたしを見上げる響に、あたしは何も言えず。
見つめ返すことしか出来ない。
気の利いた事、言いたいのに。
なにか、なにかないかな……。
あたしの後に、慌てて乗ってきて中年のサラリーマンが席に座ったのを確認したかのように、バスのドアが再び音を立てて閉まっていく。
響……。
響……、あの、あたし……。
ゆっくりとまるで滑るように走り出したバス。
「……」
もぉおお。 あたしのバカ!
やっぱり何にも言えなかったよお。
ほんと意気地なし!
手にしていた紙袋をキュッと胸に抱きしめた、その時だった。
まるで耳元で囁かれてるみたいに、真っ直ぐに届いた声。
「椎菜」
ハッとして顔を上げた。
その先には、響がいて。
スポットライトの真ん中で、彼はいつかの音楽室であたしに見せた顔で。
「――おやすみ」
そう言った。