ダンデライオン~春、キミに恋をする~
でも、本当になんにもないんだ。
あの七夕の夜。
キス未遂事件(?)があってから、一週間弱。
あれはウソだったかのように、響は普通だし。
なんにも変わんないの。
……まさか、本当に夢だった!?
あたしの妄想が、リアルになって再現された……とか?
ア、ハハ……重症かも。
勘違いに済まそうとしてたんだけど、でも確かに抱きしめられた感覚はあるし。
額に落ちた、響の髪の柔らかさも覚えてる。
ギュッと肩を抱いて、男子のいるグランドに視線を巡らせた。
すぐにわかる。
それは当たり前のように。
まるで引き寄せられるように、あたしの瞳は響を捕らえるんだ。
助走をつけて、軽やかに走り出す。
風を切って――……。
うんん、風と一緒に響はなんなく高いポールを飛び越えた。
トクン
トクン
「……すごい」
“鳥みたい”
そんな事を思ってしまった。
やっぱり響は他の男子より一つ、うんんもっともっと飛びぬけている。
なにか『特別』を感じる。
マットから起き上がった響は、髪をクシャリと混ぜながらふとこちらを見た。
「!」
わっ!こっち見たっ!
グランドの端にいる響と目が合った、そう思った瞬間だった。
「きゃあああ! 椎菜っ 危ないッ」
へ?
そんな叫び声が耳に届いたのと同時。
あたしの意識は青い空に吸い込まれていった。