ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「響……」
真っ黒なTシャツ姿の響。
色素の薄い響には、黒がよく似合う。
小さく零れた言葉に、響は「んー?」って絵を眺めたまま答えた。
だけど、本当はあたし。
すごく……
すっごく嬉しいんだ。
夏休みにこうして響といられるなんて。
しかも海だよ?
大野健吾の強引なとことか、ちょっと苦手だけど。
感謝してたりして。
響には絶対秘密だけどね?
頑張って、『彼女らしく』しなくちゃ。
バレないようにしよう!
そう、決意してあたしは、響の背後から覗き込んだ。
「なに見てるの?」
「いや。これってなんだろう。鳥?」
「え、どれ?」
「コイツ」
しなやかな指が絵をなぞる。
あたしをその先を目で追いながら、鼓動が早くなるのを感じていた。
トクン
気持ちよさそうだな……
触ってみたい……
触られたい……
トクン トクン
「……な、椎菜?」
「……」
ハッ!
し、しまったッ!つ、つい、妄想に走っちゃった。あたし何変なこと考えてんの。
バカバカ!あたしのバカ―ッ!
指先を見つめていたあたしの視界に、不思議そうな響の顔が。
「……こ、これは、かもめでしょ?」
「かもめ? かもめかなぁ……真っ黒すぎてよくわかんなくない? 俺、カラスかと思ったんだけど。 墨で描くのも善し悪しだよね」
あたしの答えを聞いて屈めていた体を起こしながら「ふーん」って眺めた響。
「……」
バレてない。
危なかった……。
顔、熱い……。