ダンデライオン~春、キミに恋をする~
首をかしげた響。
……。
「困るよ……。 あたしは、大野健吾に……何もしてあげられない」
そう言って
唇をかみしめた。
何もできない。応えてあげられない。
だって、あたしの好きな人は……。
大野健吾に何もできないし、ほんとに好きな人にも、あたしはなにも出来ないんだ。
「椎菜?」
「……」
心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる響。
視界に彼の柔らかそうな前髪が、ふわりと入り込んでくる。
それだけなのに、あたしの心は鷲掴みにされたみたいにギュッと熱くなる。
触りたいな……。
何のためらいもなく、その髪に触れられたら……。
「……」
「……椎菜」
ダメだ。
泣きそう……。
視界がグニャリと濁った、その時だった。
「おー、いたいた! お疲れ!」
あたしのこの重たい気持ちを跳ね飛ばすような、そんな明るい声が届いた。