ダンデライオン~春、キミに恋をする~
・惑わすのは、その瞳。
「はあ……疲れた」
溜息をつきながら、月明かりで照らされた廊下を歩く。
昼間の熱さが、嘘のように青白く染まる夜。
窓から空を見上げた。
そこには、真ん丸の満月がぽっかり浮かんでる。
「……キレイ」
呟いて、胸に抱えていたタオルをギュッと抱え直す。
この民宿には、温泉があるみたい。
24時間やってるらしいから、少しでも癒されたくて、あたしは温泉に向かっていた。
『ゆ』と書かれたのれんをくぐる。
脱衣所には誰もいなくて。
……って、そりゃそうか。
もう深夜12時を回ってるんだから。
今まで、大野健吾に解放されずに、あたしも響もずっとあの部屋にいたんだけど。
あいつ……あたしと響がどうやって付き合うようになったとか。
好きになったのはどっちかとか。
それはもう鬱陶しいのなんの。
しかも響の前で、わざと馴れ馴れしくあたしに触ってくるし!
肩抱いてみたり、髪を撫でまわしてみたり。
そのたびに小さな抵抗をするあたしの事に、まったく気が付かない大野健吾。
そして、チラリと響を見ると、まるで自分は関係ないって顔で窓際のソファに座って本を読んでいた。
……助けてくれては、くれなかったな……。
だいたい、アイツにあたし達の事バレちゃったら面倒くさくないのかな……。
というか、いっそバレちゃった方がいい?
いやいや。そんなハズない。
「はあ……」
下着を脱いで、タオルを持って浴場に向かった。