ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「は、はいっ」
いきなり名前を呼ばれ、思わずビクリと跳ねる。
ハッとして顔を上げると、キッチンから顔を出した男子がものすごーく怖い顔であたしを睨んでいて。
「ボサッとすんなよ。 ほら、これ運んで」
「はいっ」
やばっ、響に見とれてる場合じゃなかったんだ。
慌ててトレーに美味しそうな抹茶のパフェを乗せて、視線を落としたまま振り返った。
……と、そこで誰かにぶつかりそうになってバランスを崩しそうになってしまった。
「きゃ……」
ぼんやりしてただけじゃなくて、パフェもダメにしちゃう!
そう思って、目をギュッと瞑った。
だけど。
あたしの手からは相変わらずパフェの重み。
恐る恐る目を開けると、視界いっぱいに深緑の浴衣。
「……」
と、同時に広がる甘い香り。
これは、香水だ。
甘くて胸の奥をギュッとつかまれるみたいな感覚になる。
「ちゃんと前見なきゃ」
「あ……」
耳元をかすめるのは、優しくあたしを包み込む低音。
落っこちるはずだったパフェとトレーは、あたしとは違う手でしっかりと支えられてる。
それは骨っぽくて、ごつごつしてて。
でも華奢で。
すぐに誰だかわかった……。