ダンデライオン~春、キミに恋をする~


「え?」


慌てて顔を上げる。
その先に、俯いた沙耶がいて思わず瞬きを忘れてしまった。


沙耶はすごく明るい。
まるで太陽みたいな子。

あたしがウジウジ悩んでると、いつも「何言ってんの」って笑い飛ばしてくれる、そんな子なんだ。

決して下を向かない。

明るくて、美人で、サバサバしてて。
あたしの憧れの存在。


その沙耶が、足元を見つめたまま小さくため息をついた。



「成田が無理してるって思う事、ない?」

「え?」



無理してる?
無理って……。



質問の意味が分からなくて、瞬きを繰り返すあたし。
そんなあたしを見て、「実はさー」って声のトーンを少し上げて沙耶が話し出した。



「航平とケンカしたんだ。 毎年恒例だけどぉ」

「うん」



去年も、おととしも、クリスマスの事ですっごいケンカしたって聞いたっけ。
その事を思い出しながら、あたしはコクリと頷いた。



「アイツのバイト先ってレストランだからこの時期……ってかクリスマスって超忙しいんだって。 だからなかなかシフト替れないみたいなんだけど」

「うん」

「でもさ? やっぱりクリスマスじゃん? 一緒にいたいじゃん?男にとっては別に大した行事でもないみたいだけど、女子にとっては一大イベントじゃん?」

「……うん」

「ましてや航平なんて社会人だからさー。なおさらどうでもいいみたいなんだ」

「……」



航平君って、沙耶が大好きで。
もうぞっこんで。
いつもあの古いクーパーで迎えに来ちゃうくらい、沙耶を大事にしてて。


そんな人でも、大事な彼女のいう事でも仕事を優先させちゃうんだ……。


あたしは頷くのも忘れて、沙耶の言葉を聞いていた。



< 229 / 364 >

この作品をシェア

pagetop