ダンデライオン~春、キミに恋をする~

そこまで一気に話すと、沙耶はまた小さな小さな息をついた。

それから前に並ぶカップルに視線を向けたまま少しだけ遠い目をした。





「あたしの事なんてどーでもいいんだって言ったら、航平すっごく困った顔して……。
髪をくしゃくしゃにして、笑って言ったの。
『わかった』って。
それで、クリスマス一緒に過ごせる事になって。どこ行く?何する?って聞かれて。楽しそうに笑う航平だけど……。
その笑顔が……なんて言うか……。

『これで満足?』……って、そう言ってるみたいだった」


「……」




目の前の学生同士のカップルは、仲よさげに手を絡めて。
額を寄せ合ってメニューを選んでる。



「あんな顔……させたいわけじゃなかったのに……。
どうしてこう、うまくいかないのかな。一緒にいれるようになって、嬉しいはずなのに。全然納得してない。
あたし……どうしたいんだろう」



沙耶の声が、ちょっとだけ震えてた。
だけど、あたしは何も言えなくて、ただ沙耶の視線の先を追った。



航平君は……。
やっぱり沙耶を大事に思ってて。

無理してでも、沙耶と一緒にいようって思ったんじゃないかな。


社会人の人の苦労とか、そう言うのまだ学生のあたし達にはわからないけど。

そんなふうに悩んでる沙耶を、うらやましいって思ってしまった。



あたしと響は、ケンカなんてしたことなくて。
まだデートだって1回しかなくて。






あたし何にも……

響の事知らないんだって思い知らされた。



< 230 / 364 >

この作品をシェア

pagetop