ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「シィ!」
「……あ、沙耶」
クルクルに巻いた髪を弾ませて、沙耶が目の前にやって来た。
「今日は成田と帰るんだよね?」
「え?あ……うん」
響の名前が出て、なんとなく気まずくなる。
そんなあたしを見て不思議そうに思ったのか、沙耶は2、3度瞬きを繰り返した。
「この前はサンキューね? 航平とちゃんと話し合ってさ。
モヤモヤしてた気持ちも全部ぶつけて、それで仲直りした。 クリスマス、結局一緒にいられないけど、夜はちゃんと迎えに来てくれるって」
「そっか。 うん、そうだよね。航平くん、沙耶の事大好きだんもん。絶対沙耶の気持ちわかってくれるって思ってた」
頷いてそう言うと、ほんの少し頬を赤らめた沙耶は照れくさそうに「うん」って笑った。
よかった。
いつもの沙耶だ。
持っていた鞄を肩にかけたあたしを、沙耶がちょいっと覗き込んだ。
「――んで。シィは?」
「へ?」
いきなりの質問に、思わず曖昧な返答をしてしまった。
あたし?
首を傾げると、沙耶はチラリと響に視線を移しながら
「クリスマスの予定」
ってニヤリと笑った。
「……」
クリスマス……。
どうなんだろう………。
響は誰と過ごすのかな……。
ようやくケータイをブレザーのポケットにしまうと、響は鞄を掴んでこっちに向かって歩いてきた。
「じゃあね、シィ。 また連絡するから」
「うん。またね」
沙耶が意味深にウィンクをすると、軽い足取りで教室を出て行った。
それを見送って、響を見上げる。
いつもと同じ。
彼は、あたしを目が合うと口元を緩めて、ふわりと前髪を揺らした。