ダンデライオン~春、キミに恋をする~
―――!
駆け出したあたしの手首が、強く。
強く握られていた。
振り返ろうとした瞬間、そのまま自然な力で引き寄せられる。
ふわりと包む、甘いムスクの香り。
ナイロンのダウンがこすれる音がして、ギュッと抱きすくめられた。
はあーってため息が耳朶を掠める。
そして聞こえた、響の言葉。
「わかってよ。……俺の気持ち」
絞り出すみたいな
そんな声。
苦しくて
切なくて
初めて聞くその声色に、視界が一気に歪んでく。
響は、さらにその腕に力を込めて。
体が持ち上げられたあたしは、そのままつま先立ちになる。
「帰したくない。
……んなの決まってんじゃん」
「……、びき……」
吐き出すようにそう言った響は、そっと耳朶に口づけをした。
その瞬間、まるで電流が体中に走ったみたいになって。
それが脳みそを溶かす。
真っ白になって、何も考えられなくなる。
「これがどうゆう意味か、わかってる?」
「……」
おでこにコツンと自分のを重ねて、響はあたしを覗き込んだ。
前髪が触れる。
響の吐息が、あたしの唇に触れる。
包まれた頬が、これ以上ないくらい熱い。
でも。
それ以上に熱っぽい瞳が、あたしを射抜く。
伏し目がちのその瞳が、ユラユラ揺れて。
「……俺、ブレーキかけれる自信ないよ」
響の唇が、ゆっくり重なった。